林地開発許可制度の見直しについて ~令和5年4月から変わった点を解説~

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再生可能エネルギーである太陽光発電が平成24年(2012年)からFIT制度により大きく広がってきた中で、
太陽光発電設備の設置を目的とした林地開発も増加してきました。

太陽光発電設備の設置のため大規模な土地改変による土木災害や景観の問題なども発生してきたため、
令和5年(2023年)4月1日より森林法施行令と施行規則等の改正が施行され、林地開発の許可対象を0.5haを超えるものとするなどの変更がありました。

このため、昨年末から改正前にどうにか林地開発許可にかからない形で開発を終わらせたいというお問い合わせも多くありました。
改正から半年が過ぎ、改正後の基準で林地開発許可を進めている中で、前と違うことに戸惑っている方もいらっしゃると思います。

そこでこの記事では、林地開発許可制度の申請にかかる変更点とその注意点について詳しく解説していきます。
新規に林地開発許可の取得を考えている方や改正前に林地開発許可を取得したことがある方もぜひご覧ください。

目次
1.林地開発許可制度見直しまでの経緯
2.森林法施行令及び施行規則等の改正内容
3.令和4年11月通知で新たに示されたこと 
(1)申請に関すること
(2)設計に関わること
(3)施工に関すること
4.各都道府県の条例・要綱等での変更
5.よくある質問の解説
6.まとめ


1.林地開発許可制度見直しまでの経緯

主要な再生可能エネルギーである太陽光発電が平成24年(2012年)からFIT制度により大きく広がってきた中で、
地域住民による反対運動がでてきたことや各知事からの規制強化を求める要望から、林野庁では林地開発許可制度の見直しを進めました。

令和元年(2019年)6月 有識者による検討会を実施
→太陽光発電設備の設置を目的とした林地開発の許可基準等の整備
令和元年(2019年)12月 「太陽光発電設備の設置に関する林地開発許可基準の運用細則(林野庁長官通知)」
→技術的助言として都道府県知事宛てに通知
令和4年(2022年)1月 許可基準の運用状況の検証のため、有識者による検討会を実施

令和4年(2022年)9月 森林法施行令及び施行規則改正

令和4年(2022年)11月 「開発行為の許可基準等の運用について(林野庁長官通知)」

令和5年(2023年)4月 改正法令の施行、通知の適用開始

 


近年の豪雨等による土砂災害や許可を受けた事業者のずさんな施工管理などが問題となり、
「太陽光発電設備の設置」について、小規模なものも許可が必要になる、規制を増やすという流れに加え、
令和4年の通知で、開発行為全体としての基準の見直しを図った内容となりました。

次に具体的な内容です。



2.森林法施行令及び施行規則等の改正内容

まず、森林法施行令と施行規則等の主な改正内容について見ていきます。
昨年から話題になった以下の内容です。

地域森林計画対象民有林(保安林を除く)において
「太陽光発電設備の設置」を目的とした土地の形質変更を行う場合、
0.5haを超えるものについて許可の対象とする

以前は太陽光発電設備の設置という限定は無く、
1haを超える土地の形質変更を行う場合が林地開発許可対象でした。


【関係法令条文】
森林法施行令
(開発行為の規模)
第二条の三
法第十条の二第一項の政令で定める規模は、次に各号に掲げる行為の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める規模とする。

一 専ら道路の新設又は改築を目的とする行為
当該行為に係る土地の面積1ヘクタールで、かつ、道路(路肩部分及び屈曲部又は待避所として必要な拡幅部分を除く。)の幅員3メートル

二 太陽光発電設備の設置を目的とする行為
当該行為に係る土地の面積0.5ヘクタール

三 前二号に掲げる行為以外の行為
当該行為に係る土地の面積1ヘクタール


また、新たに、林地開発許可申請の際に
防災措置を行うために必要な資力・信用、能力を有することを証する書類を添付する
ことが義務付けされました。

どんな書類が必要かについては、説明が前後しますが、令和4年通知の内容を以下に載せています。


【参考文書】

「開発行為の許可基準等の運用について(林野庁長官通知)」
別記1 開発行為の許可の申請書に添付する書類について

〇資力及び信用があることを証する書類
(1) 資金計画書(計画書に記載する場合は、計画書の提出をもって代えることができる。)
(2) 資金の調達について証する書類(自己資金により調達する場合は預金残高証明、融資により調達する場合は融資証明書等、資金の調達方法に応じ添付する。)
(3) 貸借対照表、損益計算書等の法人の財務状況や経営状況を確認できる資料
(4) 納税証明書
(5) 事業経歴書(必要に応じ、一定の期間を定めその期間内の経歴とすることができる。)
(6) 法人の登記事項証明書
(7) 定款(法人の場合)
(8) 住民票等(個人の場合)

〇防災措置を講ずるために必要な能力があることを証する書類
施行者のうち防災施設の設置に関わる者に関する書類を添付することとする。
(1) 建設業法許可書(土木工事業)
(2) 事業経歴書(必要に応じ、一定の期間を定めその期間内の経歴とすることができる。)
(3) 預金残高証明書
(4) 納税証明書
(5) 事業実施体制を示す書類(職員数、主な役員・技術者名等)
(6) 林地開発に係る施工実績を示す書類(監督処分及び行政指導があった場合は、その対応状況を含む。必要に応じ、一定の期間を定めその期間内の実績とすることができる。)



3.令和4年11月通知で新たに示されたこと

令和4年11月の林野庁通知は、令和元年の通知とは違い、「太陽光発電設備の設置」に限らない今までの通知をまとめた内容になっています。

通知において、新たに示された主な内容について、ジャンルごとに分けて見ていきます。

(1)申請に関すること

〇開発規模の一体性の判断
   
林地開発申請において、1haを超えない(太陽光発電設備は0.5ha)ということは許可にかかるか届出ですむかの大きなポイントです。
そこで、色々と工夫して申請を行っていたことに対して、行政としての判断を以下のように行っています。

①実施主体の一体性
 個々の行為者が異なっていても、
  ・会社間の資本や雇用等の経営状態のつながり
  ・開発後の運営主体や施設等の管理者
  ・同一森林所有者
 といった、同一の事業者が関わる開発行為ととらえられる場合、一体性があるとみなす、とされています。
 許可逃れでよく出てくるケースでもあるので、一体とみなされないためには関係を明確にする必要があります。

②実施時期の一体性
 時期の重複又は連続があるなど個々の開発行為の時期
 (発電設備の場合は、個々の設備の整備時期や送電網への接続時期)
 からみて一連ととらえられる場合、一体性があるとみなす、とされています。
 都市計画法29条の開発許可にも同様の判断がありますが、都市計画法の場合は自治体によって差があるものの数年は間を空ける必要があります。

③実施箇所の一体性
 ・個々の事業で必要な工事用道路や排水施設等の設備が共用
 (共用を前提として整備することを計画している場合を含む)
 ・局所的な集水区域内で排水系統が同じ
 といった場合、一体性があるとみなす、とされています。
    

(2)設計に関すること

〇降雨形態の変化等に対応した防災施設の整備

設計に関して、改正前の内容からの変化を見ていきます。
近年の雨量増加に対応し、場所に応じてより高い数値を採用できるようにしています。
   
 ・排水施設の断面の設計雨量強度 10年確率 → 20~30年確率を採用する
                        ※周辺に人家等の保全対象がある場合

 ・洪水調整池の設計雨量強度 30年確率 → 50年確率を採用できる
                      ※河川等の管理者が必要と認める場合
 
 ・土砂流出により下流に災害が発生するおそれがある場合、堰堤等の対応策を措置
   → 山地災害危険区域上流域等で開発行為を計画する場合、堰堤等の対応策を措置する(明確化)


(3)施工に関すること

〇開発事業者の施工体制の確認

施工中の災害対応や最後まで完成できずに終わるようなことを防ぐ内容です。
(1)にも関連しますが、申請時の内容となっています。

 ・資力・信用、能力のそれぞれについて、具体的に提出を求める書類を例示
  →上記【参考文書】通知内の別記1 開発行為の許可の申請書に添付する書類について

 ・主要な防災施設を先行設置し、設置が完了し確認が終わるまでは他の開発行為を行わないこと、などを許可に付す条件として例示
  →完了検査だけでなく、防災施設の設置後に中間検査を行うなど、段階的な行政による実地検査が行われるようになっています。


〇防災施設等の施工後の管理

施工完了後に濁水などの被害が発生することがあり、降雨を原因とするものがほとんどとなっています。
今までは開発の完了確認が終わると地域森林計画の対象森林から除く運用としていたため、完了確認に一定期間幅をもたせています。
   
 ・緑化措置について、植生が定着しないおそれがある場合、一定期間の経過観察を行ったうえで完了確認を行うことができることとする
  →緑化工事により表土の侵食防止を果たすためには大体2年ほど定着の確認が必要としています。
   
 ・完了確認後の周辺区域への土砂流出等の防止を図るため、計画書の内容に防災施設の維持管理方法を位置づけ
  →申請内容になりますが、申請段階で明確にしておくこととしています。




4.各都道府県の条例・要綱等での変更

 これまでの林地開発許可制度の見直しを受けて、各自治体で定めた林地開発にかかる条例や要綱なども変更されています。
 令和元年の通知の段階で変更していたところもあると思います。

 ただ、今回の森林法施行令や通知の変更レベルの規制は以前から行っていた自治体もあるので、今までどおりのところもあるかもしれません。
 ホームページに条例や要綱を載せていない自治体もあるので、林地開発を検討の際は、事前に自治体に該当法令について確認することが必要です。




5.よくある質問の解説

 「太陽光発電設備の設置」を目的とした土地の形質変更を行う場合、0.5haを超えるものについて許可の対象となったことで、
 林野庁の周知リーフレットに次のような質問があります。

 (Q)太陽光発電設備(0.3ha)、資材置場(0.6ha)の合計0.9haの開発を計画しているのですが、林地開発許可は必要ですか?

 (A)資材置場が、太陽光発電設備を設置するために整備するものである場合には、
    双方の開発を合わせた0.9haが太陽光発電設備に関する開発行為とみなされ、林地開発許可が必要となります。
    一方、0.6haの開発の目的が太陽光発電設備の設置と関係のない場合には、
    双方の開発は共に許可を要する規模に満たないため、林地開発許可の対象外となります。





これは、0.3ha(太陽光発電設備)+0.6ha(資材置場)=0.9haなので、
「0.6haの開発の目的が太陽光発電設備の設置と関係のない場合には、双方の開発は共に許可を要する規模に満たないため、林地開発許可の対象外となります。」
という答えになっていますが、
太陽光発電設備の設置と関係のない場合、一体の開発とみなしても1ha以下なので林地開発許可の対象外と考えられます。


そのため、資材置場が0.8haの場合


  
目的が太陽光発電設備の設置と関係のある場合、0.3ha(太陽光発電設備)+0.8ha(資材置場)=1.1haなので0.5haを超えるため林地開発許可対象
関係のない場合も、「3.令和4年通知で新たに示されたこと」で述べた開発規模の一体性の判断から、0.3ha+0.8ha=1.1haとなり、1haを超えるので林地開発許可対象となる可能性があります。
  
周知用なのでシンプルな例としたと思いますが、一体性の判断は個々の状況を勘案して総合的になされるので、
3.(1)にあった開発規模の一体性の判断のとおり、
①実施主体 ②実施時期 ③実施箇所 について一体とみなされないことが手続きを簡略にするためには必要です。

太陽光発電設備用の開発ではないから、それぞれ基準以下になり伐採届でいいはず、と思って申請・工事を進める途中で、
周辺の開発の関係で林地開発許可を行政から求められるようなことにならないよう、早めの段階で検討を進めていきましょう。



6.まとめ

林地開発許可制度の見直しについて、令和5年4月から変わった点を解説してきました。
許可という意味では、全体的な制約やスケジュールが今までより重くなっていると思います。
近年の災害に対応する意味でも、しっかりと計画を立てていくことが重要です。

林地開発の伴う施設や再エネ発電所の設置や更新は、様々な法令が関係してくるため、専門家のサポートが必要なケースが多くなります。
計画準備から最終的な手続きまで、非常に多くのハードルを越えていく必要があります。
株式会社環境と開発は、長年のコンサルティング経験を活かしたサポートをしていますので、林地開発にかかる各種規制にお困りの際はお気軽にコンサルティング担当にご相談ください。

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