仮置場の運営と準備 (INDUST 2024年7月号 特集:災害廃棄物の現状と課題 寄稿)
「仮置場の運営と準備」
株式会社環境と開発 代表取締役 田邉 陽介
目次
1.はじめに
当社は、1977年に設立された廃棄物・建設コンサルタント会社である。
メインのサービスは産業廃棄物処理施設づくりコンサルディングだが、顧客である産業廃棄物処理業者様とのつながりの中で、あまたの災害廃棄物処理に携わってきた。
具体的には、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨、令和元年8月豪雨、令和2年7月豪雨、令和3年8月豪雨である。
本稿では、これらの災害廃棄物処理の経験から感じたことを列記する。
2.初動対応の主体と人員確保
発災後の初動は、災害協定に基づいて、被災自治体から各都道府県の産業資源循環協会( 以下、「協会」という)に応援要請がいき、協会が協会員である産業廃棄物処理業者の中から窓口になる企業( 以下、「幹事会社」という)を決めて対応が始まるのが一般的である。
この幹事会社が決まっていれば、応援要請に対してスムーズな対応が可能だが、応援要請後に幹事会社が決まることも少なくない。
この場合、体制構築までに時間がかかることや、幹事会社側の準備不足もあり、初動の足並みが揃わない。
理想としては、協会内で自治体ごとの幹事会社をあらかじめ決めておき、平時にも自治体と幹事会社の担当者で連絡を取り合い、各種決めごとをしておくこととなる。
実際、佐賀県では、令和元年と令和3 年に同じ地区で豪雨災害が発生したが、令和元年のときの幹事会社がそのまま令和3 年でも幹事会社になったことで、仮置場のスタートはスムーズであった。
また、人員確保の意味でも、事前に幹事会社を決めておくことは重要である。幹事会社が決まっていれば、平時からそのエリアの協会員との接点を作り、勉強会を開催するといった活動ができる。
3.災害廃棄物の種類と時間の流れ
災害廃棄物は、図1のとおり、法律上の分類とは別に、性状で分類して「片付けごみ」と「解体廃棄物」に分かれる。
片付けごみは、発災後すぐに各家庭から排出されるもので、家具・家電・食器・瓦など、一般廃棄物に近い。
【図1 災害廃棄物の種類と仮置場運営の時間の流れ】
解体廃棄物は、発災後しばらくたって始まる被災家屋の解体により発生するもので、産業廃棄物(建設廃棄物)に近い(写真1、2)。
【写真1 西日本豪雨 倉敷市解体廃棄物一次仮置場】
【写真2 西日本豪雨 岡山県二次仮置場】
また、仮置場運営の観点から見ると、被災家屋の公費解体が始まりだす発災後約3~4カ月までは片付けごみがメインであり、公費解体が始まってからは解体廃棄物がメインとなる。
この期間はちょうど、災害協定に基づく緊急随契の期間と同じになることが多く、幹事会社は、公費解体が始まるまでに片付けごみをできる限り処分して、公費解体により発生する解体廃棄物を受け入れる場所を確保した上で、その後の仮置場運営会社に引き継ぐことになる。
従って、これから先は、公費解体が始まる前までの片付けごみへの対応について、主に記載する。
なお、その後の仮置場運営会社は入札で決まるのが一般的だが、その地域の状況によって、協会や幹事会社が引き続き随契で請け負うことも多々ある。
4.仮置場への搬入(渋滞緩和策)
片付けごみを仮置場に搬入するのは、被災者やボランティアが主体とする。
早く片付けをするために、仮置場開設当初から搬入が始まるが、搬入車両により仮置場周辺で渋滞が発生することが多々ある。
渋滞が起こると、仮置場周辺の住民に影響が出るとともに、被災者等の片付けにより時間がかかることになる。
この渋滞緩和策の事例として2つ紹介する。
一つは、単品持ち込みの推奨である。
周辺の被災者同士で連携してもらうなどにより、1台の車両に積み込む廃棄物の種類を1種類にするのである。
一般的には、トラックなどに家具や家電などの複数品目を同時に積み込む混載持ち込みが多くなるが、複数品目を積んでいると品目ごとに荷下ろし作業が発生するため、仮置場内で時間がかかり渋滞につながる。
しかし、単品で持ち込んでもらえれば、一箇所で荷下ろし作業が終わるため、仮置場内での時間が短縮できる。
令和2年7月豪雨の人吉市では、単品持ち込みと混載持ち込みで車両が並ぶ列を分け、単品持ち込みを先に荷下ろしさせるファストレーン方式を採用し、単品持ち込みの割合を増やした(写真3)。
【写真3 令和2年7月豪雨 人吉市仮置場】
もう一つは、持ち込み車両を絞る方法である。
能登半島地震の輪島市では、被災者等による仮置場への搬入を不可とし、建設関連団体による回収を実施した。
これにより、比較的大きな車両による搬入が可能になり、搬入車両の台数を減らすことにつながった。
さらに、建設関連団体に単品持ち込みの依頼をすることで、さらなる渋滞緩和につながった。
この方法を実施できる自治体は多くないと思われるが、アイデアの一つになるのではないか。
5.処分先の確保
仮置場を運営する上で重要なことの一つに、処分先の確保がある。
処分先の確保ができないと仮置場内に廃棄物が滞留し、すぐに新しい仮置場を作らなければならなくなるが、処分先の確保ができて搬出できれば、仮置場を変えずに使うことができる。
もちろん、人員も分散しない。
処分先の検討としては、品目ごとに図2のような流れで決めるが、災害の規模が大きくなればなるほど必要な処分先は多くなるため、規模の大きな災害では同時に検討を進めることになる。
【図2 処分先検討の流れ】
一つ前で触れたとおり、幹事会社は、公費解体が始まり解体廃棄物が仮置場に入ってくる前までに片付けごみをある程度処分しておく必要があるため、それまでの約3~4カ月でどれだけの片付けごみが入ってきて、どれだけの処分先を確保しておかないといけないのかを検討することになる。
この時、特に問題になるのが可燃ごみおよび可燃・不燃の混合ごみである。
仮置場に入ってくる可燃ごみは、家具類(木製・プラスチック製)・衣類などになるが、これらをそのまま受け入れられる焼却施設があるか、破砕しないと受け入れられない焼却施設なのか、大型車両で搬入が可能かなど、地域によって計画が大きく変わる。
例えば、熊本地震では、熊本県内はもとより、九州内でも処分が追いつかなかったため、九州外の処分先にも持ち出して、解体廃棄物が受け入れられるように仮置場を整理した。
他の事例として、佐賀県では、令和元年は県内での処分が追いつかず、福岡県を中心とした県外の処分先に多くを依存したが、令和3(2021)年は県内に大型の民間焼却施設が完成していたため、県内の処分先でほとんどの災害廃棄物を処分できた。
6.交通網
交通網については、大きく2 つの事柄に影響する。
一つは、仮置場運営のための人員の確保。
もう一つは、処分先への運搬である。
熊本地震の際は、熊本都市圏での発災だったため仮置場運営のための人員も周辺に住んでいたし、幹線道路の復旧も早かったため、処分先への運搬についても大きな支障がなかった。
しかし、令和2年7月豪雨では、熊本県南部の球磨地方での発災だったため、仮置場運営のための人員が球磨地方では足らず、熊本都市圏から人員を確保する必要があった。
これにより、仮置場までの通勤時間が残業時間となった。
ただし、高速道路は被災しなかったことと、発災の約1年前に九州自動車道の人吉球磨スマートインターチェンジが仮置場近くに開設されていたことで、人吉インターチェンジの渋滞に巻き込まれることなく通勤や処分先への運搬が可能であった。
同様に、西日本豪雨では、発災の1年4カ月ほど前に倉敷みなと大橋が開通していたため、一次仮置場と二次仮置場の運搬時間が短縮され、災害廃棄物処理の期間短縮に寄与した。
このように、被災地および仮置場周辺の交通網は、仮置場運営に大きく影響する。
この意味では、今年の能登半島地震は、もっとも条件が厳しい仮置場運営を迫られていると考えている。
7.幹事会社の役割と平時にできる準備
ここで改めて、幹事会社の役割を整理すると、現場の運営の他に図3のようなものがある。
さらに現場では、被災者・ボランティアの方々とのやり取りもあり、特に仮置場開設初期は、分別ルールの周知や渋滞緩和策の検討など、現場で起こるさまざまなことに同時に対応していくことが必要になる。
そのため、平時にできることはできる限り準備しておくべきである。
【図3 幹事会社の役割】
例えば、図3⑥、⑦のような再委託契約書の雛形の準備、同⑨、⑩のフォーマットの整理や勉強会の開催などが平時にできることである。
通常の産業廃棄物処理事業では、主に産業廃棄物管理票( マニフェスト伝票)が根拠となり排出事業者と処理業者の間での委託業務の実施確認が行われる。
しかし、仮置場運営では、このような明確なルールが定められていないことと、仮置場運営という役務についても実施確認をしてもらう必要がある。
つまり、通常の産業廃棄物処理事業では残していないような帳票・写真等を残し、整理した上で報告書として自治体に提出する必要がある。
これらの取りまとめ方法については、日本災害対応システムズと当社で「災害廃棄物( 片付けごみ)対応マニュアル~仮置場を管理する産業廃棄物処理業者の立場から~」として取りまとめ、環境省や全国産業資源循環連合会にも確認した上でWeb公開されているので参考にしていただきたい。
https://www.zensanpairen.or.jp/kyokai/top_page/saigaidata/
また、災害廃棄物は一般廃棄物となるが、通常の一般廃棄物とは量も質も違うため、産業廃棄物処理施設での処分も可能となるように法令や通知が整備されている。
しかし、これらを取りまとめたものもなく、条文も、関係するところに少しずつ記載されているため、まとめて把握することが難しい。
もちろん、現場が安全に運営され、災害廃棄物が滞りなく処分されることが大切だが、かといって法令を無視した対応はできない。
幹事会社は特に、災害廃棄物関係の法令について認識しておく必要があり、これらについて関係者で平時に勉強会を開催することもお勧めする。
当社でも、これらについての講演も行っているので、必要に応じてご相談いただきたい。
8.おわりに
災害廃棄物処理における産業廃棄物処理業界の役割は年々増している。
しかし、災害はいつどこで起きるかわからず、自治体も協会も、地域による温度差が大きいのが現状である。
とはいえ、毎年のようにどこかで災害が発生しており、首都直下地震や南海トラフ地震などへの備えも必要である。
大規模災害になればなるほど、その時々の対応力が必要になるのはもちろんだが、それでも、事前に準備できることはたくさんある。
ほとんどが机上や想定になってしまうが、何もやっていないよりは格段に良くなる。
本稿が、事前の準備の一助になることを願っている。
最後に提案にはなるが、協会と幹事会社・協会員はもとより、できれば自治体も巻き込んだ連絡手段を確保しておくべきと考えている。
MicrosoftOffice365・Google Workspace・LineWorksと行ったツールを活用した連絡方法やデータの共有方法が確立されていれば、電話やメールに頼ったコミュニケーションよりも災害時は特にスムーズになる。
業界をあげて、これらの取り組みが進むことを願っている。
出典:『INDUST』2024年7月号 No.441
https://www.zensanpairen.or.jp/books/indust/15574/
●P28~P33掲載
https://www.etod.co.jp/dcms_media/other/indust_202407.pdf
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